昨日は、ととさんの飲み仲間であり、仲良しのご近所さん達が

見舞いに来てくれたようだ。

「何、寝てるんだよ」と励ましの激を飛ばしてくれた

おじさん達に、眠りこけていた ととさんが、

自ら手を伸ばして握手したと聞いた。


今日も病室へ行くと、ととさんは眠っていた。

「ととさん、ただいま!今帰りました」と

耳元で声をかけると、目を見開き、口をモゴモゴとさせていた。


落ち着いてよく見ると、何かを話しているようだ。

目を半開きにして、キョロキョロしながら、

かすかに唇が動いている。


「ふん、ふん。そうだね。ふーん。大丈夫だよ」と声をかけた私。

昼過ぎから来ていた母が「わかるの?」と私に聞くので

口ぱくで『適当な返事』と言ったら、母が笑った。


それでも昨日よりは、反応があり、

首を掻いたり、手を動かしたりした。


そのうち私が居ることに慣れたのか、気が付いたのか、

口を頻繁に動かすので、ととさんに話しかけてみた。


「心配しなくても大丈夫だよ。ととさん。ゆっくり寝て」と言うと

口を歪ませて、何か痛たがっているようだった。

「なにどうした?」と声をかけると、口をモゴモゴさせたので

「ごめんね ととさん、何を言っているかわからないよ・・・」と言うと

急に腕をガバっと上げて、私の右頬に掌を当ててきた。

目を半開きして、閉じかけた目を一生懸命見開こうとして、

こちらを見て、口をモゴモゴさせている。


思わず、頬にあたっている父親の手に自分の掌を重ねて、

ぎゅーっと頬を押し当てた。

「なに?心配しないで。大丈夫だからね」と言うと

突然涙が出てきた。

泣いちゃいかん!と思いながらも

父の目から視線をそらすことができず、

気が付いたらボロボロ泣いており、涙が父親の肩口にボトボトと落ちた。

母がテッシュを渡してくれて、部屋を出て行った


なんだ、このドラマのようなシュチュエーションは・・・。

自分に唖然としながらも、なにか悪い夢でも見ているような

そんな気がして、まったく現実味がなかった。


父親の眉間にシワがより、父親も泣きそうな顔になっていたので、

笑って見せた。

「平気だよ」と言って、父親の手を布団に戻すと、

また手を伸ばしてきた。


私が落ち着いてきたので、笑い続けて話しかけた。


母が部屋に戻ってきて、帰ろうと促された。

面会時間の終わりに近い。

耳元に少し大きな声で「ととさん、また明日。帰るね」と声をかけたら

「ウゥーウゥゴォー」と子供がぐずる様な声をあげた。

ビックリした。意識がほとんどなくても、聞こえているし反応しているのだ。


「ごめん、ととさん。明日また、会おうね」と私も動揺して、

会おうってなんだ、その言葉。


帰り道、母から

「看護士さんが、そろそろ薬で眠らせるって、言うの。

会わせたい人がいませんかって聞かれた」というのだ。

苦痛を伴うからなのか、後は眠り続けて逝かせるというのだ。


と、いうことは「これって、ととさんと最後の別れだったようなもの」と

母の顔見たら、涙で霞んで見えなかった。

こんな時は、本当に役に立つよ、マスクってやつは。

『ごめんね』